3.デート編
ここのところまた彼は出張が続いている。まだ、前の焼餅が完全に収まりき
っていないのに、ちょっと嫌な予感がする。
その間も仕事の方は順調。今日は涼しい社内でミーティング。今、任されて
いる仕事は、私の他もスタッフは皆女性。私より若い女の子達ばかり。レズで
は無いけど、若い女の子は大好き。別に若くなくても綺麗な女性はもっと好き。
彼女達と話をしていると、携帯電話が鳴った。
「はい」
「パパです」
目配せして席を外し、会議室の外に出る。
「どうしたの?」
「今から東京へ帰るんだけど、会社に戻らなくてもいいから、久しぶりにデー
トしようか」
「ほんとに?」
廊下の隅の給湯室に場所を移る。ここは、ドアを閉めると、中で話している
声が外にはよく聞こえない。
「嬉しそうな声、出して」
「だって嬉しいんだもん」
「下の口も喜んでるかな」
「や、エッチな事言わないで、私は会社にいるんだから」
思わず小さな声になる。
「そうそう、会社にいるのに、あそこを濡らしてる」
「や」
「乳首も立ってるかな」
「や…」
「ほら、もういやらしい声を出してる」
「そんなことないもん…」
だめ、ちょっと息が荒くなっちゃう。
「じゃ、触ってご覧、乳首どうなってる?」
「あ」
そっと服の上から降れると、もう尖りきっている。
「ほら、立ってるだろ、あそこも触ってごらん」
触らなくても分かっている。でも、彼の言葉通り、スカートをめくり、スト
ッキングを留めているガーターベルトの横からパンティに指を滑り込ませる。
「あぁっ」
「どうなってるの?」
「ぬるぬるしてる」
「いけない子だね、会社でそんなにいやらしくなって」
「あん、だって」
「だってじゃない、帰ったらお仕置きだ」
「うん」
ちょっと恐い。でも、身体が熱くなってる。
会議室に戻っても、落着かない。ツンと立ったままの乳首が、ビッショリ濡
れて熱を帯びたあそこの匂いが、服の上からでも皆に知られてしまいそうな気
がして。
上の空でいると、皆風邪でもひいたんじゃないかと心配してくれて、難なく
定時に退社する事が出来た。トイレで化粧を直し、あそこもシャワートイレで
洗い、綺麗に拭っておく。どうせ、またすぐに汚れてしまうけど。
待ち合わせは渋谷から程近い場所にあるフレンチレストラン。渋谷は若い人
ばかりの街だけれど、少し外れたそこは静かで落ち着いた店。一流店の豪華さ
は無いけれど、内装も味も親しみやすい感じの店。店名にはビストロとあるけ
れど、一応ウェイティングバーもある。そこで彼は待っていた。
「待たせちゃったかしら?」
彼の横のストゥールに腰掛けた。食前酒のキールをオーダー。彼と軽くグラ
スを上げて、乾杯。
「さて、下のお口はもうよだれが出てるかな?」
「や、やめて」
彼は、何事も無かったようにしれっとした顔をしている。私は自分の頬が赤
くなるのがわかる。彼とこうやって外で食事をするのは、とても楽しみ。でも、
いつもこういう悪戯をされる。恥かしがって慌てる私を見るのが楽しみと分か
っていても、毎回引っ掛かってしまう。もう。
「でも、パパはお腹が空いているから、まず上の口から食べるよ」
「…」
「下のお口は後でたっぷり」
「…知らない」
お酒を飲み終えると、食事の席へ案内される。フルコースを頼む事は無く、
アラカルトからお薦めを選ぶ。
メインには魚料理を選らんだので、ワインは白。多分、私が沢山飲まされる。
それでも、ゆっくり食事を楽しみ、出張中にあった出来事をあれこれと話し
合う。こうやって外で彼と会うのは本当に久しぶり。出会った頃住んでいた場
所の近くで、事件事故が続き、私の帰りが遅くなる事や一人暮らしを心配した
彼が、今のマンションを借りてくれてからは、あまり行かなくなった。
「こうやってると最初にあった頃を思い出すな」
「ね、あの時どうして私を誘ったの?」
「捨てられた子猫みたいな顔で、俺の顔をみたから」
…。
そう、あれは入社して何日かたった頃。一人会社に残り、前任者の残した、
あまりに杜撰な資料に、途方に暮れている時だった。外出先から戻った彼と目
が合った。
「おかえりなさい」
「まだ、残ってるの?」
「あ、いえ、もう帰ります」
出来れば今日中に目を通して置くつもりだったけど、とても無理と諦めた。
簡単に身支度を整え、会社を出ようとした時、彼と一緒になる。
「帰ったら、お母さんのご飯が待ってるの?」
「いえ…、一人暮らしです、それに母は去年亡くなりました」
「…悪い事、言っちゃったかな」
「そんな…、それに私もうバツいちですから」
「そうか、俺と同類か、じゃ、これから食事に付き合わない?」
「お家でどなたか待ってらっしゃるんじゃないんですか?」
「幸か不幸かおりません」
「本当ですか?」
「疑り深いなー、解った、それが離婚の原因だな」
「えっ」
「ははは」
つられて私も笑ってしまった。何だか久しぶりに笑った気がする。母の死も、
離婚の事も私には触れられたくない傷だったのに。
その日の食事中に、去年事故で両親と兄弟をなくし、それが引き金となって、
もともと上手くいっていなかった結婚が破綻した事などを彼に話してしまった。
それまで押さえていたものを解き放したように。彼の方も似たり寄ったり。若
い頃に母親を、最近父親も亡くし、離婚した前妻と二人の子供はアメリカにい
ると言った。情けないけれど、似たような境遇の人が他にもいると知って、慰
められる。
その店を出る時に、
「帰りたくない…」
と、言っていた。別の店に行きたい、というくらいの気持ちだったのかもしれ
ない。でも、口に出してすぐに、それでは済まないと気付く。
「今、帰らないと、そういうことになるけど、いいの?」
「…うん」
今夜はどうしても彼といたい。焼けるような思いが込み上げていた。
「結構飲んじゃったから、役に立たないかもしれないよ」
彼は、悪戯でも仕掛けるような顔で覗き込んだ。
「一緒にいたい…」
自分の涙声を聞いている内に、本当に涙がこぼれてくる。どうして、知り合
ったばかりの彼にここまで甘えられるのか、自分でも不思議だった。
「わかったよ」
彼の指が私の頬の涙を拭った。
…。
(子猫6へ続く)
(子猫4へ戻る)



