第5回
「どうしようというの……」
壁際に追いつめられた香織は、ズルズルと体を沈み込ませながら言った。
稔はニヤリと笑ってみせた。
香織は悲鳴を絞り出した。
「こ、こんなことをして……あとでどうなるか、わかって、いるの?」
声が脅え、歯がカチカチと鳴っていた。
「兄や真理子さんたちがもうすぐ来るのよ。わかっているでしょ?」
「すぐといってもまだふた晩ある」
稔はまた声もなく笑った。
「け、警察に訴えてやるわ」
「かまわんさ。訴えたって後の祭りというわけだ」
香織は言葉を失った。
必死で崩れようとする自分と戦っている令嬢の姿を稔は美しいと思った。
「立ちな」
稔はナイフの刃をしゃくって命じた。
「その美しい顔をズタズタにされたくなかったら、立つんだ」
顔にナイフを寄せられて、香織は蒼白の顔で、よろめきながら立った。
「両手を頭の上にあげろ。万歳をするみたいにだ」
今にも崩れそうに壁に背を押し付けながら、香織は両手をあげた。
「よし。そのままじっとしていろ」
稔はナイフを口に咥えた。
「……許して……」
稔は手袋のまま手首を壁の環に縛りつけた。
「いや……くくらないで……」
香織は弱々しく哀願しはじめた。
「ねぇ、お願いです……」
かぼそい泣き声が稔をくすぐった。
-つづく-
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