第35回
千枝のパソコンにまたも、黒河直樹からのメールが入ってきた。
「おはよう! 千枝を苦しめた新見部長はもう会社にはいないよ
ボクが遠くへ追いやったんだ。もう大丈夫だよ。
もうボクだけの千枝だ。誰にも渡さないからね。
今夜、キミを迎えにいくよ。待っていてね」
確かに、ここ二、三日、新見の姿を見ることはなかった。
千枝は内心ホッとしたような、もの寂しいような日々を過ごしていた。
新見には、あれ夜から毎日のように、どこかで身体を求められた。
開発されつつある身体は求められれば必ず反応するようになっていた。
(新見部長はもういない……。そのかわり……)
千枝は新たな不安に鳥肌が走り、全身を寒気に覆われていた。
時計が17時40分をまわった。
千枝はそそくさと更衣室に行き、私服に着替え会社を後にした。
電車を乗り継ぎ、自宅への道を足早に帰る。
あと角をひとつ曲がれば自宅というところに白のベンツが止まっていた。
見慣れない車の横を胸をドキドキさせながら通り過ぎようとしたときだった。
「おかえり。さぁ乗って!」
強引に腕を取り、助手席へと座らせられる。
千枝は声も出せず、ただ、おずおずと従うしかなかった。
(この人が黒河……)
ハンドルを握る男の横顔を盗み見ながら千枝は震えていた。
黒河は多くを語らず、車を走らせている。
車内の沈黙が、かえって千枝の恐怖心をあおっていく。
そうこうしているうちに、車は高級ホテルの駐車場の滑り込んだ。
黒河の紳士的な態度に千枝は少し落ち着きを取り戻していた。
駐車場からエレベータで一気に24階まであがる。
カードキーを無造作に開け、部屋の中に導く。
スィートと呼ばれる部屋だろうか、千枝の想像を遥かにこえる広さに感激した
先ほどまでの恐怖心は薄れ、今はただ、初めてのスィートにドキドキしていた
黒河は少女のように部屋中を見渡す千枝をソファに腰掛け眺めていた。
(かわいい娘だ……)
「榊原さん、こっちにきて座ってくれないか?」
静かな低い声でささやくように言う。
千枝は素直に従い、黒河の対面のソファに腰を下ろした。
まともには黒河の顔を見れず、下を向いている。
そんな千枝のあどけなさが黒河の心を刺激していった。
-つづく-
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