第11回
それから一週間がなにごともなく過ぎた。
千枝は海外にも支店を持つほどの会社の経理部経理課に勤めていた。
就職難の時代ではあったが、親のコネで入社して、
1年が過ぎようとしている。
あの事件が嘘のように、毎日が平々凡々と過ぎていった。
あの日、部長の声がかかるまでは…。
「榊原くん。 ちょっと」
部長の新見が他の社員に気を遣うように千枝に声をかける。
「はいっ。 部長なにか?」
普段あまり話をしたことのない部長に呼ばれて緊張の面持ちで近づいた。
「ちょっと聴きたいことがあるから、19時に第一応接室に来なさい」
「えっ。あっ、はい」
とまどいながら、あいまいな返事をした。
「なにか用事でもあるの?」
物腰はやさしいが、有無を言わさぬ迫力があった。
「いえっ 別になにもありませんが……」
自分が何かをしでかしたのか不安でいっぱいだった。
「じゃ、19時に。残業で悪いが、その時間からしか空いてないんだ」
「はい、わかりました。失礼します」
ドキドキしながら自分の席についたが、皆目見当も付かなかった。
「お先に!」
「千枝ちゃん、残業? 大変ね。 じゃ!」
次々に先輩社員たちが退社していく。
月末の経理の締め作業期間以外は定時で退社できる部署であった。
フロアには、あと数人が残っているが、それもすでに帰り支度をしている。
部長との約束の時間までは、まだ30分ぐらいあった。
千枝は休憩室へ行き、紙コップのコーヒーをすすることにした。
自動販売機のコーヒーでもそこそこの香りがするものだと思いながら、
ボーっと時間を潰した。
約束の時間の10分前になった。
千枝はトイレへ行き、用を足し、身繕いをしてから第一応接室に向かった。
応接室のドアは開いていて、電気も消えていた。
千枝は電気をつけ、入り口に近いソファーに腰を下ろした。
来客用のソファーだけあって、沈み込むように千枝のお尻を包んだ。
まもなくして、新見が足早にやってきた。
「ごめん、ごめん。会議が長くなってしまって」
新見は応接室の入り口のプレートを接客中にし、中に入った。
ドアを後ろ手に閉めるとガチャっと鍵をした。
「えっ!」
鍵をかけた音が千枝の心臓をドキッとさせた。
鼓動が激しくなり、できることならここから逃げ出したかった。
新見は千枝の対面に座り、茶色の封筒をテーブル上に置いた。
「聴きたいことというのは、この封筒の中身なんだが」
前置きもなしにさっそく用件を切り出した。
「開けて見てごらん」
新見の低い声が千枝をいっそう不安にさせる。
千枝は恐る恐る封筒を手にし、中を覗いた。
中には六つ切りの写真が数枚入っていた。
破裂しそうなほど心臓がドキドキしている。
封筒に手を入れ、取り出して見たとき、千枝は言葉を失った。
それはまさにあの夜の写真だった。
天井から鎖で吊るされた千枝のあらゆる姿が写されていた。
ブラジャーとパンティだけの姿から裸身に剥かれるまでのサマが、
手に取るようにわかる写真だった。
プロの写真家がとったように綺麗に鮮明な写真と
ビデオプリンタから出力されたような、写真まであった。
男が後ろから貫き、苦悩の表情も鮮やかだった。
千枝の細くて長い指がワナワナと震え、写真を落としそうになった。
「どっ、どうして、これを?」
やっとの思いで出した声も震えている。
「入手経路は教えられんが、一目みてキミだとわかったよ」
新見は得意気に千枝のエクスタシーがアップになっている写真をかざす。
わざと千枝の顔と照らし合わせ比べて見る振りをした。
「それにしても、いい表情だね」
「やめて。返して下さい!」
千枝は顔を手で覆い泣きながら訴えていた。
「おいおい、泣き出さなくていいじゃないか。
なにも返さないとは言ってないだろう」
新見はソファの背に体を預けながら言った。
「じゃぁ、返して頂けるのですね?」
涙が頬をつたい、目を充血させながら新見を見上げた。
「ただし、はいっそうですかと返す訳にはいかないよ」
膝に肘ををおき、手を前に組みながら新見はニヤニヤしながら言った。
「どうすれば、返して頂けるのですか?」
涙ながらに哀願する千枝の表情がたまらなくセクシーだった。
「私を満足させてくれれば、返してあげよう」
「?!」
新見の言葉の意味が理解できず、心もとない表情で見返す。
「ここで裸になって見せてくれないか?」
「えっ!」
「この写真のようにキミの裸を是非見てみたいんだ」
紺色のベストの制服姿の胸の膨らみを新見が舐めるように見た。
(いい女だ早く素っ裸に剥き上げてヒイヒイ泣かせてみたい)
とんでもない要求に迷っている千枝の美貌を見ているだけで、
新見の股間は熱くなった。
「どうした? 会社中にこの写真をバラ撒かれたら困るんじゃないか」
(せっかく親のコネで入社できた会社にいられなくなっては……)
いろいろな思いが千枝の頭をめぐっていった。
-つづく-
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